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高知地方裁判所 昭和56年(行ク)6号 決定

申立人

北村寿夫

右訴訟代理人

溝渕道浩

同右

溝渕悦子

被申立人

大豊町町議会

右代表者議長

松岡春美

右訴訟代理人

金子悟

主文

一  被申立人が昭和五六年一〇月二五日申立人に対してなした町議会議員除名処分の効力を本案判決確定に至るまで停止する。

二  申立費用は被申立人の負担とする。

理由

第一当事者の申立及び主張

申立人の申立の趣旨及び理由は別紙(一)記載のとおりであり、これに対する被申立人の意見は別紙(二)記載のとおりである。

第二当裁判所の判断

一疎明資料によれば、被申立人は昭和五六年一〇月二九日申立人に対し大豊町議会議員除名処分(以下「本件除名処分」という)をなしたこと、本件除名処分の事由は、日本道路公団による四国横断自動車道路(以下「自道車道」という)の敷設が予定されている大豊町においては、自動車道の建設促進が町の重要施策として位置づけられ、大豊町議会も、昭和五一年四国横断自動車道路開通促進委員会(以下「促進委員会」という)設置条例を制定し、議員七名(その後条例の改正により八名)の構成による同委員会が、町執行部と協力体制をとり、事業促進主体となつて自動車道建設用地の取得を進め、その一環として、残土処理予定地の大豊町津家地区においては昭和五四年九月ころから各地権者との協議がなされ、また同町川口所在の大杉製材所の立退に伴う代替地の物色が昭和五五年一〇月末ころより始められていたところ、大豊町議会議長の要職にあつた申立人は、右事情を知悉しながら、昭和五五年三月ころ大豊町津家地区の土地一〇筆を買い受けた後、昭和五六年五月一一日、大豊町行政課長ら数名の者と共謀のうえ、同土地を大杉製材所の代替地その他の公共用地として同製材所及び大豊町に対し高価に売り渡す等し、もつて不当の利益を得ようとしたものであり、申立人の右の行為は、議会の品位を著しく傷つけたものであつて、大豊町議会会議規則九九条に違反するものとして、地方自治法一三四条、一三五条により除名処分を免れないというにあることが認められる。

被申立人主張のその余の除名事由についてはこれが申立人を除名する町議会において除名事由となつていたことを認めるに足りる疎明がない。

二申立人は、申立人の右行為が仮に認められると仮定しても、これは、議場外における個人的行為であるから、そもそも地方自治法一三四条一項の懲罰事由に該当せず、したがつて、これを対象としてなされた本件除名処分は違法である旨主張するので、まずこの点について判断する。

大豊町議会会議規則九九条は「議員は、議会の品位を重んじなければならない」と定め、地方自治法一三四条一項は「普通地方公共団体の議会は、この法律並びに会議規則及び委員会に関する条例に違反した議員に対し、議決により懲罰を科することができる」と定めている。

そこで、右会議規則九九条にいう「品位」の意義(ひいては地方自治法一三四条にいう「懲罰」の意義とその性質)について検討する。

一般に、地方公共団体の議会の議員がいわゆる品位を害するような非行をなした場合に、当該議員に対するコントロールの方法としては、原則として同公共団体の住民による政治批判(例えば、次期選挙、解職請求等)に晒されるべきであり、かつ、それをもつて十分とすべきである(当該非行が犯罪を構成する場合に、刑事責任の追及を受けることがあるのは、もとより別論である)。けだし、議員資格の取得及びこれに基づく諸活動の根元は、選挙等を介して表される住民の意思にあり、したがつて、右住民の意思に基づかずに他の諸機関が当該議員に対し議員資格のはく奪その他の懲罰を加えることは、原則として許されないものと解されるからである。

しかしながら、例えば、議員が議会の会議が行われる場所である議場の秩序を乱したり(地方自治法一二九条参照。なお、議会の開会を阻止し、流会に至らしめるような議会運営に関する行為をした事案に関する最高裁昭和二八年一〇月一日判決・民集七巻一〇号一〇四五頁参照)、議場において無礼の言葉を使用し、もしくは他人の私生活にわたる言論をなしたり(同法一三二条参照)したような場合についてまで、右の方法によるコントロールしか及ばないとすれば、議会が議会として存立していくうえでの基盤が損なわれ、議会の円滑な運営は到底期し難いので、これを防止する見地から、地方自治法一三四条一項において、議会は、その自律権の発動として、議会の秩序を乱した議員に対する懲罰権を認められたものと解すべきである。

懲罰権が、右のような趣旨のもとに議会の自律権の発動として認められたものであることを考慮すれば、地方自治法一三四条一項により懲罰を科することができる事由は、議会の構成員たる「議員としての行為」に伴う義務違反であつて、かつ、議会の円滑な運営を阻害するおそれのある行為でなければならず、「議員としての行為」に伴うものでない、即ち、議員たる地位を離れた個人的行為はこれにあたらないものと解するのが相当である(最高裁昭和二八年一一月二〇日判決・民集七巻一一号一二四六頁参照)。したがつて、前記会議規則九九条にいう「品位」のように、文理上、議員としての行為と必ずしも結びつかない一般的義務を定めたものと解される余地のある用語の解釈にあたつても、右に述べたところに従つて限定的に解釈されなければならないものというべきである。

これを本件についてみるに、除名事由は、前示のとおり、申立人が予め安く買入れた土地を大杉製材所や大豊町に対して高価に転売し、もつて不当の利益を得ようとしたというものであるが、疎明資料によれば、申立人は促進委員会の委員でないのみならず、促進委員会自体大豊町長の諮問機関にすぎず、買収主体である日本道路公団に協力して道路建設用地及び代替地の取得交渉に臨みこれを遂行するのは、あくまでも、執行機関たる大豊町長であり、促進委員会及び大豊町議会にはその権限がないことが認められるのであるから、仮に申立人が、除名事由にあるとおり、不当に利益を得る目的で転売行為をなしたと仮定しても、これをもつて、議員としての地位においてなした行為ということはできないものといわなければならない。(被申立人主張のその余の除名事由について疎明がないことは前記のとおりであるが、仮にこれが除名事由とされ、しかもそのとおりの事実が認められると仮定しても、前記同様の理由によりこれが議員としての地位においてなした行為と認めることはできない。)

そうだとすれば、本件除名処分は、議会が本来懲罰権を有しない事由についてなされたものというほかはなく、本件本案訴訟において、違法としてその取消を免れない蓋然性が極めて高いところである。

三以上のとおりであるから、本件の本案訴訟において、本件除名処分は、早晩取り消されることになる蓋然性が極めて高いものといわざるを得ないが、このように明白な違法状態が存するときには、その早期是正という見地から、当然に、行政事件訴訟法二五条二項にいう「処分の執行により生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当するものというべきであり、本件処分の執行停止を求める本件申立は理由がある。

(なお、本件本案の訴が地方自治法二五六条によつて事前に要求されている知事の審決を経ずに提起されたものであることは、申立人の自認するところであるが、本件のように処分の違法性が明白である場合には、当然に、行政事件訴訟法八条二項二号にいう「処分の執行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき」若しくは、同条同項三号にいう「裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき」に該当するものというべきである。)

四よつて、本件申立は理由があるからこれを認容することとし、申立費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条をそれぞれ適用して主文のとおり決定する。

(山口茂一 増山宏 坂井満)

別紙(一)申立の趣旨及び理由

第一 申立の趣旨

主文と同旨

第二 申立の理由

一 申立人は、昭和五四年四月大豊町議会議員選挙において当選し、同年五月五日から昭和五八年五月四日までの任期を有していたところ、被申立人は、昭和五六年一〇月二九日、申立人に対し議員除名処分をなした。

二 その理由は、必ずしも明確とはいえないが、要するに、昭和五六年五月一一日、申立人が大豊町津家における公共事業関連開発事業に関連し、自己所有財産を大豊町に提供貸与する等地権者としての疑惑を思わせる契約等を締結した事実が、議会の品位を著しく傷つけたもので大豊町議会会議規則九九条に違反するというにある(疎甲第一、第二号証参照)。

これは、申立人が大豊町のあつ旋協力要請に従つて四国横断自動車道及びこれに伴う大豊インターチェンジの用地として日本道路公団に買収される大杉製材所の移転先用地の一部に申立人所有地を提供し、その際、他の地権者の土地も含めてその中に存在する国有の水路、農道などの処理をするため申立人所有地も一旦大豊町に貸与する旨の協定書(疎甲第一四号証)に調印したことを指すものと思料される。

三しかしながら、次の理由により本件除名処分は違法といわなければならない。

1 前記協定書への調印及び申立人が提供した土地の取得については、申立人に何ら非難されるところはなく、また、その後申立人が提供した土地の造成に大豊町土地開発公社所有地の土が使用されたことについても、申立人は何ら関与していない。

2 のみならず、申立人の右行為は、議場外における個人的行為であり、議会の運営とは全く関係がないから、地方自治法一三四条一項の懲罰権の対象とはなり得ないものである。

3 更に、大豊町議会会議規則一〇七条二項によれば、秘密会の議事を漏らした場合を除き、懲罰動議は懲罰事犯があつた日の翌日までに提出することを必要とするところ、前記協定書に調印したのは昭和五六年六月のことであり、仮に懲罰事犯のあつた日を議場外の行為であるからこれを議会が了知した日と解したとしても、大豊町長が昭和五六年一〇月六日、大豊町議会に対し右協定書を提出してその旨報告し、即日この問題を調査するため大豊町議会に地方自治法一〇〇条に基づく特別委員会が設置されたのであるから、少なくとも同月七日までに懲罰動議が提出されなければならないにもかかわらず、本件の懲罰動議が提出されたのは同月二九日であり、したがつて右懲罰動議に基づいてなされた本件除名処分は、右規定に違反したものというほかない。

4 なお、右特別委員会においては、大部分の関係者が召喚されて証言をしているが、申立人には呼出しはなく、また懲罰動議が提出されてから本件除名処分に至るまでの間、申立人は被申立人に対し、二回にわたり弁明の機会を与えるよう申し入れたが、いずれも拒絶された。本件除名処分は、右のとおり全く申立人の弁解を徴することなくなされたものであつて、違法のそしりを免れない。

四 そこで、申立人は、本件除名処分の取消を求めて地方自治法二五五条の三に基づき高知県知事に対する審決の申請をなしたが、右審決がなされるのは早くても昭和五七年一月末ころと予測されるところ、大豊町議会は、昭和五六年一二月一二日ころに定例会を招集し、昭和五六年度一般会計の補正予算、昭和五六年度特別会計、条例改正等について審議する予定であり、地方自治法二五六条による前記審決を経ていては右定例会において申立人は議員としての職務を遂行することができず、これは行政事件訴訟法八条二項二号にいう「著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当するから、右審決を経ずに提起した本件本案の訴(高知地方裁判所昭和五六年(行ウ)第一二号)も不適法ではないというべきである。

五 申立人は、昭和三八年以来連続五期大豊町議会議員に当選し、各種委員会の委員、委員長及び大豊町議会副議長を歴任したほか、昭和五四年五月一〇日、昭和五六年六月三〇日の二回にわたり同議会議長に選任されたものであり、初当選以来一度も議会を欠席したことはなかつたが、本件除名処分により、残された任期につき議員及び議長としての職や地位を失うばかりでなく、大豊町住民により託された議員としての活動の場である前記定例会において質疑、討論その他の発言をなし、議決権を行使することができなくなつて、大豊町住民に対する職責を果せないという公的損害を蒙るばかりでなく、議員としての政治生命をも左右されることになつて、申立人個人としても大きな損害を蒙ることになり、本件除名処分の効力が本案判決確定まで続けば、原状回復は不能であり、金銭賠償などによつては償いきれない著しい損を蒙ることになり、これらは、行政事件訴訟法二五条二項にいう「処分により生ずる回復困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」にあたるというべきである。

六 よつて、本件除名処分の効力を本案判決確定に至るまで停止する決定を求める。

別紙(二)被申立人の意見

第一 申立人の趣旨に対する答弁

一 本件申立を却下する。

二 申立費用は申立人の負担とする。

第二 申立の理由に対する答弁

一 申立の理由一は認める。

二 同二の事実中、申立人が自己所有財産を大豊町に提供貸与する契約をなしたことが除名処分の理由の一部となつていることは認めるが、その余は否認する。

三 同三ないし五は争う。

第三 被申立人の主張

一 本件除名処分の理由は次のとおりである。

日本道路公団は、昭和四六年四月ころ四国横断自動車道の構想を決定し、昭和五二年九月三〇日大豊・南国間の路線を発表した。大豊町は、右公団の決定直後より右事業の促進を町の重要施策として位置づけ、昭和五一年には町長の諮問機関として「四国横断自動車道路開通促進委員会設置条例」を制定し、議員七名(その後条例改正により八名)の委員が町執行部と協力体制をとつて事業促進主体となり、公共用地取得に乗り出した。その一環として、残土処理予定地とされた大豊町津家地区においては、昭和五四年九月より各地権者との協議がなされ、また昭和五五年一〇月末ころには立退予定の大杉製材所の代替地の物色が始められた。当時町議会議長の要職にあつた申立人は、以上の経過を充分知悉のうえで近い将来大豊町において立退問題に伴う公共用地が必要となるものと予測し、いわゆる「土地転がし」によつて利益を得ようと企て、昭和五五年三月ころ、大豊町議会議員永森義広と結託し、豊永忠臣から大豊町津家地区の土地を買い取つたうえ、前記促進委員会により大杉製材所の代替地の物色が開始されたことを知るや、大杉製材所代表者前田徹に対し、右購入土地を移転先として希望するよう強要し、同人をして大豊町に対しその旨の申出をなさしめ、昭和五六年春ころに至つて、高知市の不動産業者である横矢忠志及び町民で不動産業の小笠原博文と結託し、自らも大豊町に対して右土地を大杉製材所の代替地として提供する意思のあることを申し出た。

そして、申立人は、大豊町の鎌倉行政課長と共謀のうえ、昭和五六年五月一一日、申立人外三名の地権者と大豊町長とを契約当事者とする協定書を作成したものであるが、その内容は、例えば町長の一存で決定できないはずの嶺北消防署の建設予定地が、あたかも申立人の右土地であるとして決められたように記載されていること、本来大豊町助役を理事長とする同町土地開発公社がなすべき公共用地の取得について町が将来公共用地を必要とする場合には、右土地を必らず買い取らねばならないかのように記載されていること、土地代金試算表の基礎価格(土地代金、工事代金)に偽りがあり、造成後の宅地価格を不当に高いものにしている等々、大豊町及び住民の利益は全く無視され、申立人側にとつて一方的に都合のよい虚偽のものとなつているのである。

以上のとおり、申立人は、その職権を濫用して執行部に対し著しく不法不当な介入をなし、いわゆる「土地転がし」を企図したものである。

のみならず、申立人は、大豊町土地開発公社専務理事を兼ねていた前記鎌倉行政課長と共謀のうえ、昭和五六年七月初旬ころ、同公社理事会の決議を得ることなく、同公社の基本財産である大豊町川口所在の川口南地区工業団地内(造成済)の土を約二〇〇〇坪、深さ1.5ないし2メートルにわたつて掘り取り、その土を前記申立人外三名の所有地の造成(埋立)に使用し、もつて同公社に対し右工業団地の原状回復に要する費用一三二二万円余の損害を与えたものである。

右のような申立人の行為は、町議会議員として、議会の品位を汚し、その権威を失墜させるものであるにとどまらず、議会の秩序維持及び議会の円滑な運営に重大な支障を及ぼすものであるから、大豊町議会会議規則九九条に違反するものとして、地方自治法一三四条、一三五条により除名処分を免れない。

二 本件除名処分は次のとおり正当になされたものである。

1 申立人は、前記協定書の作成及び提供土地の取得について何ら非難されるところはなく、また大豊町土地開発公社の土が違法に採取された件についても、全く関与していない旨主張するけれども、地方自治法一〇〇条に基づく大豊町議会特別委員会による調査結果及び関係各書類を総合すれば、右除名理由のとおりの事実が認められるのであるから、本件除名処分に事実誤認の違法は存しない。

2 申立人の右行為が、議会の品位を汚すばかりでなく、議会の円滑な運営にも重大な支障を及ぼすものであることは、右除名処分の理由のとおりであるが、後者について敷衍すれば、次のとおりである。

すなわち、過疎対策に悩む大豊町にとつてその唯一の打開策を四国横断自動車道の開通と工場誘致に求めることは当然であり、大豊町執行部及び大豊町議会はその精力のほとんどをこれに費消しているといつても過言ではない。両者の自動車道開通への熱意と努力は、前記促進委員会を設置したことのほか、四国横断自動車道大豊南国間建設促進期成会、四国横断高速自動車道等連絡協議会に参画していることから明らかなところであるが、このほか、大豊町議会においては、町執行部と協力して関係当局に対する陳情や交渉、住民対策等につき全精力を傾注しており、したがつて議会の運営は、議事に対する討論議決等の会議よりも自動車道建設を対象とするものにその重点が向けられてきたものである。このような情勢下においては、申立人の右転売行為は、住民の期待を裏切つて自動車道開通に対する熱意と協力に水をさし、ひいては議会の円滑な運営を甚だしく阻害するものといわざるをえない。

また、申立人らが違法に採土した川口南地区工業団地は、大豊町が自動車道開通と並んで重要視する工場誘致策に基づき建設されたものであり、これに関しては、申立人自らも議長として広報パンフレットに挨拶の文言を寄せ、議会を代表して工場誘致に努力していたところである。議会が町の命運に関する重要事項につき、議決権の行使のみならず、意見表明権等を駆使して町執行部に協力することは、議会としての正当な権限行使であつて議会運営の範囲内にあるものと思料されるが、右の違法採土行為に関しては、関係住民から町当局に対し苦情が寄せられる始末であり、これも右「土地転がし」と同様、工場誘致に対する住民の信用を失ない、ひいては議会のなす誘致活動を甚だしく阻害する結果となり、したがつて議会の円滑な運営に支障を来たす行為といわねばならない。

以上のとおりであるから、申立人の前記行為は、到底純然たる個人的行為であるとはいい難く、地方自治法一三四条一項所定の懲罰権の対象内にあるものというべきである。

3 申立人は、本件除名処分は大豊町議会会議規則中の時効規定を看過した懲罰動議に基づくものである旨主張するが、同規定にいう「事犯のあつた日の翌日」とは、事犯の終了した翌日と解釈運用されているものであり、本件のように事犯が継続している場合には適用の余地はない。

4 また、申立人は、大豊町議会が申立人に対し弁解の機会を与えなかつた点を非難するけれども、申立人の弁明申出の許可について本会議に諮つた結果、一人の賛成者もなく否決され不許可となつたものであり、この点については全く違法性は存在しないものである。

5 以上のとおり、本件除名処分について申立人が主張するような違法性はいささかも存在しないものであつて、その正当性は明らかである。

三 申立人は、本件申立については「処分により生ずる回復困難な損害を避けるための緊急の必要がある」ものと主張するけれども、右にいう回復困難な著しい損害の有無については、行政事件訴訟法二五条一項がいわゆる執行不停止の原則をとつていること、及び地方自治法一三五条三項が除名の議決要件を厳格に規定していることに鑑みれば、相当に納得すべき特別の事情が存在しない限りは、これを認容すべきでないことは明らかであるところ、申立人は、単に議会に出席し質疑、討論議決等の議員としての活動のできないことのみをもつて回復困難な著しい損害に該当すると主張するものであり、特別の事情については何らの主張、疎明がなされていないので、執行を停止すべき理由がない。

なお、本件除名処分は、出席議員二一名中二〇名が圧倒的多数をもつて議決したものであるが、この状況からみれば、仮に本件申立が認容されて、申立人が議会に復帰して前記一二月定例会に出席し得たとしても、如何程の議員活動が可能なのか甚だ疑問とせざるを得ない。また、昭和五六年一〇月一九日開催された前記特別委員会による関係人調査において、申立人は、同委員長より調査の妨害になるからとの理由で二度にわたり退席を求められたにもかかわらず、全委員の意思を無視してそのまま強引に在席を継続したものであり、このことは、申立人が右委員全部に対し、激しい私的感情を有していることを示すものであるが、その後、前記の議員二〇名は連署して高知県警察本部に対し、申立人を背任罪で告発するに至り、両者の対立は先鋭化の一途を辿つているのである。このような状況では、仮に申立人が前記定例会に出席したとしても、正常有効な議員活動が期待できないばかりか、悪質な議事妨害等の手段に出ることも十分に考えられるところである。以上のような事情を考慮すれば、「回復困難な著しい損害」はないものというべきである。

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